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蜂蜜エッセイ応募作品

蜂蜜屋さん

本多 芹生

 

 海沿いの小さな町に、生まれて以来ほぼ一貫して住んでいる。そのうちの約60年間に及ぶ通学や通勤にはいつも同じ道を学校や駅まで往復歩いたのだが、その途中に蜂蜜の店があった。住宅地の中にポツンと一軒だけの小さなお店、それも蜂蜜専門の売店があるのは不思議だったけれども、自家養蜂園で採れた天然蜂蜜を扱っていたのでお客さんは多かったようだ。おそらく純良な蜂蜜がまだあまり世に出回らなかった、戦後すぐに開店したのだったろう。近所の住人は親しみを込めて「蜂蜜屋さん」と呼んでいたっけ。また昭和の終わりごろ、欧州某国の駐日大使が偶々訪れたこの店の蜂蜜を、新聞紙上の随筆で褒めていたことを覚えている。
 我が家でも親は中元や歳暮にここの蜂蜜を用いたりした。小学生の私は店奥の見やすいところに掛けてある柱時計により時を知ることができるので、下校時には必ず店内を覗いたものである。親子ともそれぞれこのお店にはお世話になったといえよう。
 その後もお店は営業を続けていたが、平成の時代に入った頃にどうやら経営が替わったらしく、店の名や構え、雰囲気なども変ってしまった。そんなこともあって、大人になった私には贈答用に、あるいは自分用に、この新しい店の蜂蜜を購入する機会はなかった。また、大人として当然に腕時計や携帯電話で時刻を知るようになったから、柱時計を覗くようなこともしなくなっていた。
 昨年勤めを退職してからは通勤自体が不要となったが、先日久しぶりに電車に乗るべく駅の方まで歩いて行くと、途中で時刻が気になった。10数分ごとの電車に上手く間に合うかしら?スマホを見ようとして、家に忘れてきたことに気づく。そうだ、あの蜂蜜屋さんを覗こう。今も時計があるかもしれない。
 ところが店はまた模様替えしていた。営業も週末だけとなったようで、今日は閉まっている。平日は時刻も蜂蜜もここでは入手できなくなってしまった、というわけだ。
 しかし、家に置き忘れさえしなければ、スマホで時刻は知ることができる。今や小学生だって、スマホ類を持っているのだろう。また、純粋な天然蜂蜜も自然志向が高まる中で、インターネットや宅配便などの発達によって、遠隔地からでも取り寄せることができるようになったという次第だ。むしろ、このことを大いに喜ぶべきかと思うのである。

 

(完)

 

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